お茶の科学(サイエンス)

お茶がリードする21世紀の科学


静岡県立大学薬学部

竹元 万寿美


 二十一世紀を迎え茶と科学の将来について少しお話してみたい。科学の世界は十九世紀のはじめ一挙に活性化した。さらに医薬革命をうみ、抗生物質の誕生は 人類を救った。二十世紀に入り物質世界は一変し人類の生活は向上した。しかし、限りある資源の急速な消費、化学物質の製造、使用、廃棄が人間の健康と環境 を損なった。
 二十一世紀を迎えた今、科学は何をしていなければならないだろうか。二十一世紀はグリーンケミストリー精神に従い、限られた資源を有効に利用し再利用すると同時に環境への負荷を軽くする科学技術が求められる。

二十一世紀のグリーンケミストリーの挑戦課題
 グリーンケミストリーとは、言いかえれば環境にやさしい化学合成、汚染防止につながる新しい合成法、環境に優しい分子、反応の設計などを意味し、有害物 をなるべく使わない、出さない化学である。Paul T. Anastas, John C. Warnerによれば、二十一世紀にとりくまなければならないグリーンケミストリーの挑戦課題として、以下の六項目をあげている。
(1) 重金属試薬の廃止
(2) 生体に学ぶ多機能分子
(3) コンビナトリアルグリーンケ  ミストリー
(4) 環境を汚さず環境浄化にもつながる反応
(5) 溶媒を使わない反応
(6) エネルギーへの配慮

お茶がリードする二十一世紀のグリーンケミストリー
 今のべた六項目の中で(1)(2)(4)(5)(6)の項目の課題は茶により解決ができるのではないかと考え私は日々研究を行っている。今回これらの項目の中で(2)生体に学ぶ多機能分子の課題において、最近の私の研究成果を簡単に紹介してみたい。

生体に学ぶ多機能分子とは
 生体システムでは複雑な立体構造の分子が酵素により生合成されており、それらが各種生理活性を有するため抗ガン剤をはじめ多くの医薬品が誕生した。その 生体内の酵素および類似反応をひきおこす分子が多機能分子である。そこで私はお茶の酵素は二十一世紀を背負う多機能分子になれると信じてお茶の酵素による 抗ガン剤合成に挑戦してみた。

茶で抗ガン剤が合成できるか
 エトポシドは世界中で使われている白血病、肺ガン、肝臓ガンに有効な植物由来抗ガン剤である。Podophyllum peltatum の樹木を伐採しポドフィロトキシンを抽出し市場に供給されているが、近年の世界的森林保護の高揚により新規合成法が望まれていた。
 そこで私は樹木がポドフィロトキシンを代謝する過程をバイオミメティック(生物模倣)アプローチにより茶に存在するペルオキシダーゼという酵素を用いポドフィロトキシンの合成法を開発した。本法の利点を以下に挙げる。
(1) 茶の酵素を用いた安全かつ省   エネルギー対策型合成法
(2) 茶の成分ではない他の植物の 有効成分が合成できる
(3) 茶の酵素は固定化することに より何回もリサイクルが可能
(4) 二十一世紀型グリーンケミストリーに基づいた医薬品合成法

お茶が持っている魔法の酵素
 私は静岡県茶業試験場青島洋一氏(現在静岡県農業試験場)と有用機能に富む茶カルス培養系の確立について共同研究を行っている。特に今回紹介した茶ペル オキシダーゼの最大の特長は、茶自らが産生できない他の植物の有用代謝産物(天然物)が合成できる点である。つまり茶の有用酵素により各種医薬品が二十一 世紀型グリーンケミストリーにて合成可能となる。さらに深刻な環境ホルモンの浄化も茶により解決ができるのではないかと日々研究を行っている。
 とにかく二十一世紀ますます茶の機能に目が離せない。

(たけもと ますみ)              月刊「茶」2001年1月号より

 


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