お茶の科学(サイエンス)

網膜の酸化的傷害に対する茶の効果


静岡県立大学・薬学部

佐野 満昭


 私たちは、生研機構基礎研究推進事業の助成をいただき、農水省野菜・茶業試験場、九州大学とともに、茶の抗アレルギー成分について研究し、これまでに、 「べにほまれ」や「べにふうき」などの品種や台湾で製造される凍頂ウーロン茶などに強い抗アレルギー作用を有するカテキン誘導体などいくつかの活性成分を 見出してきました。現在、それら物質の体内動態や作用機構についての詳細な検討が進められています。この抗アレルギー茶に関しては、昨年の本誌10月号に 共同研究グループの山本氏が寄稿されていますので、本稿では、これら抗アレルギーカテキンを含め、網膜の酸化的傷害に対する茶カテキンの抑制効果について 述べることとします。

 老人性黄斑変性症は失明度の高い網膜傷害でありますが、その発症前期にはドルーゼといわれるリポフスチン様蛍光物質が出現し、網膜傷害との関連性が指摘 されています。 リポフスチンがつくられる機構は複雑ですが、その一つとして、細胞膜を構成する不飽和脂質が活性酸素により異常な酸化を受けた後、二次的 に生成するアルデヒド類とタンパク質が反応して作られることが知られています。浜松医科大学の協力をいただき、ブタの網膜を用いて、その自動酸化により生 ずるリポフスチン様蛍光物質のうち、水溶性の蛍光物質に対する茶カテキン類の生成抑制効果について調べたところ、茶に特有なカテキンであるエピガロカテキ ンガレート(EGCg)をはじめ、先に述べた抗アレルギーカテキンなどがその生成を強く抑えることがわかりました。また、それらカテキンは、脂質が酸化さ れる過程よりも、過酸化を受けた脂質からアルデヒドが生成する過程を強く阻害し、その結果、水溶性蛍光物質の生成を抑制したことがわかりました。研究の一 部は、今年2月にポルトガルで行われた眼に関する国際シンポジウム(ISOPP)で発表いたしましたが、発表後、試料提供の申し込みをはじめ、緑茶に関す る質問や問い合わせを受け、特に欧米の研究者の茶に関する関心の高さをあらためて認識した次第です。
 この網膜傷害に対する我々の研究は、まだ試験管レベルでの検討が中心であり、今後、動物への投与実験などの検討を経た後に、有効性を評価する必要がありますが、カテキンをはじめ種々の抗酸化性物質を豊富に含む緑茶の網膜傷害に対する効果を期待したいと思います。
 抗酸化物質を緑茶として摂取する意義について少し述べることとします。活性酸素は様々な疾病を引き起こすことはよく知られていますが、広義に分類される 活性酸素は、生理的条件下で生成するものだけでも数多く、その傷害機構は多様であります。一方、これらの生成を防止したり、消去したりする能力は抗酸化物 質の種類によって大きく異なります。 それ故、抗酸化能としてのホメオスタシス(恒常性)を保つためには、単一の抗酸物質を多量に摂取するよりも、性質や作用の異なった抗酸化物質をバランスよ く摂取する必要があります。今、欧米において、緑茶は有望な抗酸化食品の一つとして注目されています。その理由は、緑茶には強い抗酸化作用を有する EGCgが豊富であることとともに、ビタミンCをはじめとし、抗酸化作用を有するアミノ酸類や抗酸化酵素の生合成に必要なセレンや亜鉛などの微量金属を豊 富に含むこと、さらに、抹茶として利用する場合には、ビタミンEやカロテンなど脂溶性の抗酸化物質も同時に摂取することができることにあります。また、薬 を飲むということは少なからずストレスを伴いますが、お茶を飲むことは、逆にストレスを和らげる、楽しみながら多種類の抗酸化性物質を多く摂取することが できること、これが紅茶より緑茶が注目されている所以と思われます。
 このような緑茶に対する認識が単にブームとして終わらないためにも、安全性や品質管理の面とともに、しっかりした研究に裏付けられた機能性を提示することで、わが国はもとより世界に付加価値の高い日本緑茶を提供することができるものと思われます。

(さの みつあき)              月刊「茶」2000年5月号より

 


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